『雪国の話』



「なあ、俺たち死ぬのかな」
「何弱気な事言ってるんだよ。良いか、測定によればもうすぐ春になるはずなんだ!助かる!」
「…」

「なあ、俺たち絶対に死ぬって」
「またその話か!もう弱音は聞き飽きた!そんなに死にたいならさっさと死ねば良いじゃないか!」
「…」

「俺、思うんだ。たとえ此処で死ななくたって俺にもう存在意義は無いよ。見ろよ俺の手。こんなんなっちまって、もう働けねぇよ。お前なんか足が凍っただけじゃねぇか」
「同じだろうが!それに、こいつなんて酷い有様じゃないか!喉がやられたんだぞ!もうこいつは治してもらわない限りラッパもふけないし、バイオリンも弾けない!勿論歌だって歌えない!」
「…」

「なあ、お前、本当に冬はあけるのか?あけたとして、本当に俺たちは治してもらえるのか?」
「可能性は0じゃない。信じる価値はある!」
「…」

「これで1ヶ月だ…もう駄目だ…」
「又か!もういい加減うんざりだ――!」
「…」

「…」
「さっきから口数が少ないな、大人しく待つきになったのか?…?おい、聞いてるのか?…おいってば…!?どうした、返事をしろ!返事を!」
「…」

「…」
「ああ…なんてことだ…あけない…冬があけない…そんな馬鹿な…まさか、あの時点で俺は…」
「…」

「…」
「いやだ…こんな…」
「…」

『―――』















沈黙の銀世界は、やがて溶解して消える。




「春だー、久しぶりの新鮮な空気だー」
「何アホっぽいこと言ってんだよ。まずは点呼だろ!」
「そうか。ええっと、じゃあ1番ロッジ無事冬越えですー」
「2番ロッジも問題なし。3番は?」
「おうよー全員無事だー4番ロッジはどうだー」
「大丈夫ですー。只…」
「あ?なんだ?」
「すいません、数種類のロボットを内部に回収するのを忘れてしまって…」
「何だって?どれだよ?」
「ええと、危険作業用ロボット、気象観測用ロボット、エンターテインメントロボットの三種類です。危険作業用とエンターテインメントは主要の回線がほぼすべて駄目になってます…。気象観測用のほうも基盤がいかれてますし、モニターも壊滅状態で…。実験用ロッジの影に置かれていた所為で気づかなくって…ごめんなさい!」
「…いや、全然問題ねえ」
「は?」
「それら俺がわざとほっといたんだよ、どうせ不良品だったからな。」
「え、そうなんですか?」
「おう。危険作業用ロボットはかなりの欠陥品でな、腕の回線がもとからいかれてたのよ。なんとか繋いでたんだがもう限界だった。気象観測も微妙にずれてたんだわ。エンタメは単に旧型過ぎてそろそろスピーカー接続部分にがたがきてた。そんだけさ。金は有り余ってるから新しいの買えばいいだろ。誰かが外におきっぱなしにしておいたってことにしてよ」
「…じゃあその役は普通にお前だよな」
「な、なんでですか!」
「あ、しつもーん。そのロボットどうするんですかー。」
「ん?あー…適当に他の廃棄物と一緒にまとめとけ。」
「了解したですー」
「あ、でもつかえそうな回路とかコネクタとか取っとけよな?いくら消費社会っつったってリサイクルが基本だもんな!」
「さすがーいい事いうねー」
「ったりめーよ。うし、じゃーそれすんだら久々にきちんとした飯をくおーじゃねーか。保存食じゃ飽きちまったぜ」
「同感」
「じゃ、一時解散って事で」
「おー」












そしてもう一つの銀色の世界は只沈黙し錆びるのを待つ。
其の世界では銀は増えるのみ。


溶ける事など、決してなかった。


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