【二人の話】

これは、二人の話。
コトリと、ヒトリという二人の話。
二人は他人だった。
二人はいつも一緒だった。
二人は兄弟ではなかった。
二人は他人だった。
しかし、二人は兄弟のようによく似ていた。
しかし、二人は別人のように物を好んだ。
しかし、二人は二人で一人だった。

ある日、二人は軍隊へ志願した。
コトリは、沢山の人を殺した。
ヒトリは、沢山の人を癒した。

コトリは軍神として有名になった。
ヒトリは軍医として有名になった。

ある日、二人は特別に休暇を貰った。
その日、コトリは酒を飲みに街へ行った。
その日、ヒトリは家へ帰った。
家ではある兵隊が待ち伏せをしていた。
帰ってきたコトリを撃ち殺すために。
自分の弟の敵を討つために。
しかし帰ってきたのはヒトリだった。

『しかし、二人は兄弟のようによく似ていた』

ヒトリは肺を打ち抜かれて倒れた。
兵隊は、怖くなって逃げた。

コトリが家へ帰ってくると、そこでヒトリが倒れて瀕死状態だった。
「ヒトリ!!」コトリは叫んだ。
「コトリ…」ヒトリは呼んだ。
ヒトリは死んだ。
コトリを残した。

『しかし、二人は別人のように物を好んだ。』
『しかし、二人は二人で一人だった。』

コトリは大声で叫んで、銃を手に取った。
軍服をつかんで、走って戦場へと向かった。
叫びすぎて喉が切れて、血を吐きながら銃を放った。
コトリは沢山人を殺した。
軍神は、軍医を殺されて泣いていた。

前に出すぎて、コトリは頭を打ちぬかれて死んだ。

その国は、偉大な軍神と軍医の死を嘆いた。
二人を間違えて殺した兵隊は、公開処刑された。


しかし二人には、自分の死を嘆く国は関係なかった。


コトリはヒトリが死ぬ事が無いようにと、一人でも多く殺したから。
ヒトリはコトリが傷ついても大丈夫なようにと、傷ついた兵士を癒す事で練習をしたから。
でも、もうどちらも意味を成さなかった。
二人は、二人で一人だったから。
ヒトリが死んで、コトリもそのとき死んだから。


これは別人のように物を好み、
兄弟以上に似ていて、
しかし他人であって、
いつも一緒だった、
コトリとヒトリという二人の話。

二人で一人だった、二人の話。

今も手をつないで眠る、二人の話。

inserted by FC2 system